買える!アートコレクター展「Collectors’ Collective Vol.2」
買える!アートコレクター展「Collectors’ Collective」、コレコレ展の2回目開催に伺いました。
会場は前回同様MEDEL GALLERY SHUです。
出展コレクター
- ⻲井博司/ Hiroshi Kamei (Instagram@ishitsubutehiroshi)
社会人1年目からアート作品の購入をスタート。コレクター歴は約10年。
批評性のある作品や、 身体性・精神性を反映した作品を中心に、約60点を所有している。ペインティング、ドローイン グ、彫刻など形態は問わず強いオリジナリティを好む。
最近は新世代の感覚を持ち合わせた若手 アーティストの作品を国内外から購入することも増えている。昨年からスマートフォンでアーティスト本人の解説を聴ける音声ガイドサービスをギャラリー向けに制作する活動を始めており、 最近は現代アートの魅力をどのように広げられるかに興味がある。 - 熊野尊文/くまのアートbot (Twitter@kumaaaart)
30歳台前半の一般サラリーマン。コレクター歴約1年半。
同性代の若手作家を中心に作品を蒐集。
クレジットカードの分割払いを駆使し、気になった作品を見境なく購入した結果、1年間で30点を超えるペースでのコレクション形成に至る。しかしその後の支払いに頭を抱えてしまうほどの無計画さが玉に傷な直感即決型コレクター。
最近はコレクションの方向性を定めるべく自制を利 かせ、購入をセーブ中。大学時代に美学・芸術学を先行しており、元々美術は好き。自宅を購入し、家に飾る絵を探し始めたことがコレクションのきっかけ。 - 黑澤拓也/ Kurosawa (Twitter@mujina1985 )
現代アートコレクター。コレクション歴は4年。
自分の足で最前線の現場を見て回る事を信条に、美大やオルタナティブスペースの展示も回り、Twitterで情報を発信している。
2019年に観覧した展覧会は約600。2019年のコレクション点数は約15点。
若手作家の平面作品を中心に蒐集。未来に価値のあるコレクションを残すことを目標に活動している。
本企画は、Vol.1の前回同様、大きく3つの展示で構成されました。
- アートコレクター3名がコレクションした作品の展示(販売はなし)
- コレクション作家の新作を展示販売
- アートコレクター3名が2020年にオススメしたい作家の新作を展示販売
以下、展示の模様を写真でお届けします。
各作家についてのコメントは、コレクターにより書かれたものです。展示の際にキャプションで表示されていました。
1)コレクション作品の展示
⻲井博司/ Hiroshi Kamei
ジュンイナガワ
インスタグラムを見ていて偶然を見つけたのが最初だった。日本のサブカルチャーとストリート要素を組み合わせるという特異な観点が面白く、どうにか会いたくて実家のおむすび屋さんで行われるというイベントに行った。
海外での生活が⻑かったという理由もあるのかもしれない。彼はアニメや漫画を本気で愛していて、それと同じくらいHIPHOPなどのストリートカルチャーを浴びて育ったという。日本から世界に発信できる新しいエネルギーを見つけたと思った。そして、何より本人が素直で熱くて楽しかった。
それ以降は都内のギャラリーでの個展、Bishとのコラボ企画、ビリー・アイリッシュへのイラスト提供など、多くの露出機会を得て知名度を高めている。
日本のアートとして打ち出すための武器としてオタク文化がごくごく当たり前のものとして育ったジュンイナガワは、今後も予期できないような跳ね方を見せてくれると信じている。
monet
インスタグラムのレコメンドで上がってきて興味を持った作家。
「でんぱ組.inc」のツアータイトルのロゴを手掛けるなど、かなり活躍の場を広げている&武蔵野美術大学で諏訪敦さんに教わっているらしい、という情報を得て、雑誌『NYLON』とコラボした個展に行くと、自分以外全員が若い女の子という状況 …オロオロしながら作品を鑑賞した。
ストイックに努力を重ねていることが伝わってくる丁寧な技術とナルミヤなど日本の子供服が持つ独特の色彩が面白く、新しい可能性を感じた。オリジナルモチーフを描いたシリーズはもちろん、心象 風景を独特の色彩で組み合わせた作品も興味深い。
個人的にはペールトーンの使い方が上手いと思う。商品も自分で作るなどプロデュース力も高く、女子中高生から20代前半の若い女性の支持を集めているのも納得である。最近はインスタグラムのストーリーズで使えるエフェクトを作るなど、新世代のアーティス トの形を見せてくれている。
皆藤齋(Itsuki Kaito)
アンチモラルや羞恥心など目を背けたくなるようなナルシシズムや、マゾ的でセンシティブな内面を独自の世界観で表現する作家。2018年にニューヨークに 滞在して以降、海外ギャラリーでのグループ展、中国・ヨーロッパでも個展を行うなど精力的に活動している。
情けなく尻を出した男が描かれた 2017年の作品は、海外での活動が本格化する前のもので、コンセプトがプリミティブに反映されている。画面を分割するような背景と手前のキャンバス地が奇妙な立体感を 生む。海外での滞在を経て描かれた 2018年の作品では、ペインティングの厚みが増し、コラージュ的な構成により⻁とベルトで拘束された男の遠近感が面白い。
皆藤さんは海外作家を中心に幅広く作品を見ており、関心を持った作家の評価は上がっていくケースが多い。作品の良し悪しを見極める目がとても良いのだろう。表現技術は年々高まっており、注目すべき若手作家の 1 人である。
熊野海
松井えり菜さんのアーティストランスペースで初めて知った作家。
色々お話しを伺うと、お父さんが陶芸家で幼い頃から陶芸に関わり藝大工芸科陶芸専攻を出たが、卒業後はペインティングをメインに活動していたとのこと。そんな中、久しぶりに制作したという陶芸作品が展示されていた。
薪を使った釜を用い高温で焼くことで、作品は硬く締まり、付着した灰が溶けてできる作品の表情が独特だった。「釜の中の温度が下がらないように寝ずに釜を管理するが、それでも焼き上がって釜から出すと割れていることもある」など、制作には苦労があるという。
ペインティングを経た影響もあるのか、美しい造形と整い過ぎていない表面のざらつきが気になり購入した。熊野さんの作品からは日本らしさというよりは無国籍というか外国作家のようなテイストも感じられる。
熊野さんの陶芸作品は、どこに置いても強い存在感があるに違いない。
熊野尊文/くまのアートbot
新宅加奈子
去年、渋谷の百貨店の企画展にて初めて作品拝見しました。
初見でどういう作品なんだろうと思っていたのですが、後からご自身の身体に絵具を浴びせ、パフォーマンスを行っていることを知り、強烈な印象が頭に残りました。
肌の上で絵具が乾燥し固まっていたり、艶かしく流れ落ちていたり、絵具自体 に生命が宿っているかのような存在感を放っています。そして自分の皮膚が支持体である、という事実は彼女のパフォーマンスを見てより強く認識させられました。タイトルの通り、「私はまだ生きているんだ!」という叫びが聞こえそうなほど、生という存在に強く訴えかける力を持った作品だなと感じています。ずっと気になっていたので、再度百貨店に足を運び、購入を決めました。
東慎也|Sinya Azuma
2020年始に友人と日帰りの京都旅行に行き、別行動で弾丸ギャラリー巡りをした際、現地のギャラリーでご紹介頂いたのが初見です。
様々な作品をビューイングルームでご紹介いただく中で、一際目を引いたのが東さんの作品でした。淡く広がる色合いや自由で伸び伸びとした独創的なイメージに、一瞬で心を掴まれてしまいました。残っていた作品はわずかでしたが、今回展示した作品と、もう一点50号の大作の2点をその場で購入しました。この日帰り旅行がなければ出会うことが無かったかもしれない作品へのご縁や、ちょうど東さんが京都造形大の修士課程終了のタイミングで、この先の活躍をリアルタイムで追いかけることが出来る面白さなどから考えても、個人的に思い入れの強いコレクション作品になりました。
内田ユイ|Yui Uchida
昨年 TYM344さんとの二人展「ART FOLDA 00 スキップ・トレーサー」で初めて作品を鑑賞。 残念ながら気になるものは全て売約済でしたが、本作はギャラリーからのご提案もあり、ご本人にコミッションワークを依頼し個人的に制作頂いたものです。公には初公開となります(自身初、内田さんにとっても初のコミッションワーク)。売約済作品を下敷きに背景や表情を新たに描いてもらいました。
失われつつあるセル画という素材を支持体に組み込んだ、時間・運動性に眼差しを向けた作品であり、更にアクリル板と背景の二重構造が、鑑賞者と作品との距離・境界線の問題にも切り込んでいる、その現代美術的な要素の強さに惹かれました。一見綺麗なアニメ映画のワンシーン、その裏にある作家の思想とのギャップが素敵です。
黑澤拓也/ Kurosawa
BIEN《TAP TAP TAP》
2017|ペンキ、木製パネル|33.3×22×5cm
初めて拝見したのは Reborn-Art Festival 2017、被災した水産倉庫をスケートパークにしたワンパークという施設での展示でした。ワンパークは特筆して良い展示だったため印象に残っています。本作は同年末に開催されたアーティストグループが主催する芸術祭に出展された作品の一点です。厚みのある支持体に虫食い線のようにカービングを施しペイントした彫刻的ともとれる作品です。一見抽象的なドローイングに見えますが、モチーフとなるキャラクターや文字、場所に基づく具象的なイメージがあり、それが抽象的な線描に説得力をもたらしています。場の文脈を拾い上げ空間に強い訴求力を持つ作風からはストリートカルチャーの影響が伺えます。最近では巨大な壁画も手がけるなど、フィールドを問わず多彩なスケール感で躍動する作品に大きな可能性を感じます。
浦川大志
WEB やスマートフォンに映し出される画像を元にポストインターネット時代 の風景画を描く、デジタルネイティブ世代を代表するペインターです。VOCA展2018では大原美術館賞を受賞されるなど、今後の活躍が期待されます。浦川さんを認識したのは 2017年の百貨店の企画展で、新九州派として名もなき実昌さんと連名で出展されていた時だったと思います。実昌さんの作品も好きで合わせて蒐集しています。本作は特にアブストラクトな筆致にフォーカスされた作品で、ペイントツールを思わせるストロークのグラデーションや複層するレイヤーなど、巧みな構成と豊かなマチエールは小作品でありながら⻑期間の鑑賞に耐えうる強度を有しているように思います。
山縣瑠衣
自身の身体感覚におけるリアリティの探求を手がかりに、言語、視覚の倒錯、近作では地図というマクロな視座までそのフィールドを拡げ、⻄洋絵画の歴史 も援用した独自の作風を展開されている注目の若手作家です。現在、東京藝術 大学大学院 技法材料研究室に在籍されています。山縣さんを知ったのは丁度私が美術作品を蒐集し始めた2017年、藝大の学部2年時に参加されたグループ展で小作品を購入したのがきっかけでした。それ以来可能な限り展示を追っている思い入れの深い作家です。本作は昨年の須田日菜子さんとの二人展で購入させていただいた作品で、教育実習で地元に帰省中に制作されたと伺いました。作家の内的世界の風景を表すような絵画空間が広がり、どこか私的で親密な関係性を感じる作品です。
シエニーチュアン
2019|布に油彩、木炭、スプレー、オイルパステル、パステルペンシル、インク、水 彩|53×65.2cm
シエニーチュアンさんは「デ・ジ・キャラット」や「らんま1/2」など、アニメやゲームのキャラクター文化に幼少期から親しみ、自分自身をもキャラクタ ーであると自称するほどそれらを強く内面化した作家です。初見は2017年のグループ展でした。当時はもっと直接的にキャラクターを描いた挿絵的な絵画 を制作されていていましたが、その後加入した美術共同体の影響から近代絵画のロジックを取り入れ、モダニズムに対するポストモダニズムとしてのキャラクター絵画という単純な二項対立に留まらない、新たな絵画様式を生み出しています。本作はシュルレアリスムで試みられたオートマティスムという手法を援用し、荒目の布に揮発性油で希釈された絵の具で描かれています。画面内を多次元的に往還する複雑な絵画言語によって簡単には消費されない強度のある画面を構 築しています。
コレクション作家の新作
⻲井博司/ Hiroshi Kamei
熊野尊文/くまのアートbot
黑澤拓也/ Kurosawa
注目の作家
⻲井博司/ Hiroshi Kamei
Waku Fukui(ワクフクイ)
原宿にあるギャラリーで初めて Waku さんの作品を見た。暗めの空間にネオン を使用した作品が展示されており、会場で流す音楽も含めて非常に興味深かった。海外ではネオンを使用する作家も多くいるが、国内では珍しいと思う。素材としてネオンを使用している作家はいるが、ネオンを主軸に制作しているという作家はどれほどいるのだろう。
Wakuさんは商業的なモノとして見てきたネオンを、アートとして全く違った見 え方で提示している。同じ光を発しているのかもしれないが、その違いこそ光が持つ可能性ではないだろうか。PARCOやユニクロの企業案件を手掛けるなど、これからもますます活躍の場を広げていく作家だと思う。今後の制作におけるコンセプトや将来的な目標など色々話を聞いてみたい。
Wakuさんの作品がある空間って、それだけで「すげぇ」ってなるだろうなぁ… 笑
熊野尊文/くまのアートbot
後藤夢乃
代官山の解体予定となっている商業施設跡地を利用して行われた「アート解放区」というイベントではじめて作品を見ました。多くの作家の展示が、広いスペースの中で行われていたのですが、彼女の作品が展示されている空間だけ異 質なオーラを放っていました。 展示場所は商業施設跡地ということだけあって、空間ごとにバリエーションに富んでいましたが、彼女の区画は真っ黒い天井と壁。ランプの明かりにボヤっと浮かぶ作品たちをみたとき「モローだ」と思いました。そして残念ながら作 品は完売。 モローのサロメのような怪しさと、夢想世界のような妖艶さはまさに世紀末芸 術のそれだと。自分の好きな時代性が表れていて、直感でいいなと感じた作家さんです。まだ藝大修士の学生さんですが、卒展も控えており、生でみてこそ光る作風だと思いましたので、この度お声掛けさせて頂きました。
藤田淑子|Yshiko Fujita
岡本太郎賞の入選で知った作家さんです。ちょうど太郎賞の展示前、都内でおこなわれた「Thirsty Girls -渇望する少女たち-」という個展で初めて作品を鑑賞しました。
SNSで流れてきた作品画像を見て、インパクトのあるリボンのモチーフが印象的で目に焼き付いたのを思えています。そこで欲しいなと思ったシリーズは残念ながら完売していました。
その個展で、アプリのArtStickerとの連動企画のドローイングキャンペーンをやられていたことをきっかけにメッセージを頂戴したことから、今回お誘いす ることになりました。
図像的には今流行りのグラフィックやキャラクタ―アイコン感もありながら、しっかりと他者とのコミュニケーションや関係性といった問題に独自の視点で切り込んでいる印象もあり、今後のご活躍がとても楽しみです。
黑澤拓也/ Kurosawa
なお、新たなコレクターにバトンを渡して行われる「コレコレ展 Vol.3」の開催は、2020年の年末から2021年の新年にかけて開催予定されています。
概要
買える!アートコレクター展
「Collectors’ Collective Vol.2」 ※コレコレ展
注目のアートコレクター3人がコレクションした作品と、2020年にオススメする美術作家たち
会場:MEDEL GALLERY SHU(日比谷)※帝国プラザホテル2階
会期:2020年7月9日(木)〜7月16日(木)※会期中無休
時間:11:00〜18:00(最終日は16:00まで)
参加アーティスト(五十音順)
東慎也 Shinya Azuma Instagram
内田ユイ Yui Uchida Instagram
浦川大志 Taishi Urakawa Instagram
皆藤齋 Itsuki Kaito Instagram
熊野海 Kai Kumano Official Site
後藤夢乃 Yumeno Goto Instagram
シエニーチュアン shieneychuan Twitter
ジュンイナガワ Jun Inagawa Instagram
新宅加奈子 Kanako Shintaku Instagram
藤田淑子 Yoshiko Fujita Official Site
山縣瑠衣 Rui Yamagata Instagram
李晶玉 Ri JongOk Instagram
BIEN Instagram
monet Instagram
Waku Fukui Instagram